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THINGS I LOVE vol.26

2026.05.07feature

 

 

 今回紹介するのは、1996〜7年頃に発表されたCOMME des GARÇONS HOMME PLUSのトレンチコート。このコートを買った頃、僕はトレンチコートを頻繁に着ていた。バーバリー、マーガレット・ハウエル、ニック・アシュレーのトレンチコートを中心に、トム・フォードの新生グッチが出したトレンチも好きだった。そこで忘れてはいけないのがプラダが提案していたニューモッズスタイルのコートである。シングルフロントで、これを“シングルトレンチ”と呼ぶ人もいたが、僕はスキニーなスラックスと合わせていた。靴はと言えば、シルヴァノ・マッツァに大きなフレームのクリスチャン・ロスのサングラスを合わせるのが好きだった。基本的にトレンチコートはタイトなサイズを選んでいた。このCOMME des GARÇONS HOMME PLUSのトレンチコートは、そんな僕のモッズスタイルブーム時代に購入した逸品である。

 1997年頃のCOMME des GARÇONS HOMME PLUSのランウェイでは、ミュージシャンのピート・タウンゼントがモデルとして歩いたのも印象的だった。ピート・タウンゼントといえば、『ザ・フー』のギタリスト。ブライトンを舞台に、モッズとロッカーズの若者たちを描いた映画「さらば青春の光」では、ザ・フーとして楽曲の提供もしている。この映画は、音楽、ファッション、映像美に温度差がなく、それぞれが濃密に絡み合っているのが素晴らしい。シビれる映画である。裏方としては本当に羨ましい映画で、そんな映画の制作に一度は参加してみたいものだと今も思う。

 今回ピックアップしたトレンチコートはボンディング素材で、軽量でありながら張りのある表面が特徴。丈はスリークォーター。広がりを持ちながらも軽快に着られる丈である。前述の通り、90年代はショートレングスのスラックスにサイドゴアブーツを合わせるのが基本だったが、最近は〈vowels〉のホワイトジーンズにトリッカーズのウイングチップを合わせている。こんな組み合わせもブライトンビーチ辺りだとスタンダードな感じだったような・・・。

 2000年から2005年頃にかけて、僕はブライトンビーチをよくロケ地として使っていた。ロンドンからだと車で1〜2時間で着く。東京から千葉の九十九里へ撮影に行くような感覚だ。ビーチ沿いに小さな遊園地があり、海岸沿いにはカフェや小さなホテルが並んでいる。映画「さらば青春の光」にはスティングがホテルのポーターとして出てくるのだが、その描き具合がじつにリアルである。この映画では主人公たちがスクーターを乗り回してモッズファッションを見せつける。そのどれもが実にクールである。モッズパーカと呼ばれているアメリカ陸軍のM-51が頻出するが、トレンチコートもよく出てくる。タイトなシルエットのスーツの上にこのミリタリーコートM-51、という組み合わせがアウトローな雰囲気を盛り立てていた。まさにモッズスタイルの教科書のような着こなしだ。が、同時に今回のスキニーなトレンチコートの着こなしもモッズスタイルの象徴的なアイテムである。襟を立てて、レンズの大きいサングラスを掛ける。僕はこの90年代半ば以降、眩しくもないのにサングラスを掛ける習慣がついたが、それはこのモッズスタイルの影響が大きい。今でもその名残で、〝どこでもサングラス″なスタイルを引きずっている。

 

現在のタイプとは違い、コートやジャケットに付いた織りネームは大きめ。懐かしい。
第一次世界大戦時のイギリス陸軍が塹壕(トレンチ)戦で着用したコートがベースなだけあって、雨風をよけるスロートラッチを搭載。トレンチ伝統のディテールだ。
スリークォター丈。エポーレットの存在感が強め。
ラグランスリーブは肩の可動範囲や運動量を最大限確保。軍用衣料としての本来の機能を彷彿とさせる。
素材感は軽くて柔らかい感触。色目は秋だけど、着心地としては春向き。

■祐真朋樹(@stsukezane
1965年京都市生まれ。マガジンハウス『POPEYE』編集部でエディターとしてのキャリアをスタート。現在は雑誌のファッションページの企画・スタイリングの他、アーティストやミュージシャンの広告衣装のスタイリングを手がけている。コロナ以前は、35年以上、パリとミラノのメンズコレクションを取材していた。

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