経験から生まれる、たしかなクリエイション
“思いが伝わるルックブックにしたい”大島
ルックブックの撮影を林さんに依頼された経緯を教えてください
実は15年くらい前からずっと林さんとご一緒したいと思っていました。
そうなんですか!?
そうなんです。今回のカメラマンを太呂さんにお願いするときに、スタイリストを林さんで考えているとお伝えしたら『いいと思うよ』というお話しで。自分は派手なリアクションをするタイプではないのですが「おっ!」という感じでした(笑)
たしかに最初に太呂さんから話がきたと思います。「やりますよ、はい、わかりました」という感じでした。やってみなきゃわからないですし。あと、アートディレクターが小酒井くんだったということもあります。その2人は大きかったですね。
そこは本当にありがたい導きでした。小酒井さんとも以前お仕事されていますか?
はい、何度かご一緒しています。ここ最近はやっていなかったのですが、ちょっと前にはカタログなどを一緒に。長いつきあいですね。
初めての撮影時の印象を教えてください
すごく物理的なことですが「フィルムかぁ…」とは思いました(笑)僕もフィルムでやることはありますが、やっぱり少なくなっています。雑誌の4ページや6ページならありますけど、ルックブックでフィルムはなかなかない。今はモニターで全部確認しながらじゃないですか。
そうですね。
モニターがないのがすごく新鮮です。久々に。そういった楽しみはありましたね。
僕はフィルムが初だったので。
あれ、ポラも撮ってないですもんね?
撮ってないです。
デジタルで仮も撮ってないですよね。
ポラも撮ってないですね。なので、スピード感もそうですけど、出てくるものに対する期待と不安と様々な感情があって…
珍しいと思いますよ。しかもクライアントさんが立ち合いされている状態で、ポラもなく、仮のデジタルもない。
そのあたりは、会社の懐というところが大きいと思います。
信用してくださっているということですよね。結果、だから良くなっていると思います。あの空気感はフィルムじゃないと出なかったと思いますし。
やはり想定している紙を含めて伝わるようなブックにしたいという思いがあるので、ひとつ綺麗な作品にはなったと思っています。太呂さんからフィルムの提案をいただきましたが、即断して良かったなと。
カメラマンにもよるのですが、僕の撮影はわりと早い場合が多くて。太呂さんの場合はもう何も言わず任せたほうがいいかなと直感で思っていて。自分の手法はカメラマンに応じて臨機応変に変えていっています。
“美しいと思えるものがいい”林
前回の撮影で、お花をちらされたのはどのような経緯ですか。(林さんが手を振るようにお花を振っていたのを見て驚いた、と伺いました。)
なんとなく、ブレた感じがいいんじゃない?という感覚です(笑)
ルックを撮り終えた最後ですよね。
一番最後の最後。お遊びで。おもしろかったですけどね。花器とお花は事前に僕が持っていきますとお伝えしていました。果物は小酒井くんが持ってきて。いい意味で、それがノイズになればいいかなと思っていたのですが、効いていますよね。
すごく良かったと思います。花器は作家ものですか?骨董ですか?
これは作家ものです。ベルント・フリーベリという北欧はスウェーデンの。
お好きなんですか?
大好きで集めています。その人と、その人のまわりの人。いわゆる北欧でいうと、ベルント・フリーベリになるかな。綺麗ですよね、やっぱり。
僕はもっぱら買うのは日本のものが多くて。
日本のものも買いますが、結局これを見ちゃうと「こっちが最初じゃん」と思ってしまう。形もそうですし。
ルーツみたいなものですよね。
そうです。日本のものでも、民藝の土着したものだとまた違うのですが。日本の洗練されたものがあるじゃないですか。そういうのは、見れば見るほど絶対全部北欧じゃんと。でも北欧の多くの陶器は中国の影響が垣間見られるので、もしかしたら中国が一番古いルーツなのかもしれないですけど。
僕は日本民藝館(美術館)で行われている展覧会はすべて足を運んでいて、そちらの世界は勉強中です。
僕も器が好きなんです。洋服も同じですよね。美しいと思えるものがいい。
これが持っている器の中で1番好きなものです。蓋もので、特に決まった用途はないと思います。これは河井寛次郎の作品なのですが、バチっと焦点が合いました。人も器も書物も好き、そこから派生して世界が広がりました。
なるほど。かわいいですね。(本棚から『ザ・バイクライダーズ』の写真集を見つけて)ところでこの映画は観ましたか?
観てないです…
めちゃくちゃ良かったですよ。最高でした。ジェフ・ニコルズの演出もしかり、主役のオースティン・バトラーもいいし、ジョディ・カマーもトム・ハーディもいいです。突出したなにかが起きることはないんです。でも僕からすると、その抑揚のなさがリッチで。友人にも絶賛しています。
次の撮影までに観る必要がありますね(笑)
“いいものを探すよりも、ダメなものを排除する感覚”林
林さんが『エレガンス』と感じられるコト(モノ)はどんなものがありますか?
結局、自分が好きなものはエレガンスなものが多い気がします。ファッションページはスタイリストがディレクターになると思いますが、エレガンスだなと思うページと、品がないなと感じるページがある。それは好き嫌いになりますが、僕が注意しているのは、素材に過度なストレスを与えないこと。とはいえ、そのまま出してもダメというのもあるじゃないですか。
そうですね。
それはフィルムで撮ることや、ウエストの巻き方でもそうで、やりすぎても品がなくならないように、すごく注意しています。どちらかというと、色気に似ているかもしれないです。生まれ持ったもので、身につけようとしても身につかないみたいな。その人がやれば、最終的にエレガンスになっちゃうというような。品のある人が作るページは、エレガンスなものになっています。
生まれや育ちだけではないですよね。培ってきたものや、見てきたものや聞いたもの、経験。
そう思います。もちろん生まれや育ちも若干はあると思います。親の教育とかね。でもそれ以上に何を見てきて、何を表現してきたかということが一番かなと。真似できないですし。受け取る人によるので、最大公約数が難しいですが。
そうですね…。僕はソニア・パークさんのディレクションするページが好きなんです。
あぁ、僕の師匠ですね。
林さんを知ったときにはソニア・パークさんとのつながりは知りませんでした。匂いなのかはわからないですが、おふたりの関係性を知ったときに、自分の好きな美意識との共通性を感じてうれしく思いました。
あとは、ある程度“いいもの”を知っていることも大切ですね。時計やアクセサリーもそうですし、ニットでも触った瞬間にわかるみたいな。だから僕はいろいろなものに触るようにしています。それは映画でも、写真でも。そうすると自分の好みがわかります。いいものを探すよりも、ダメなものを排除する感覚に近いかもしれないです。最終的に残ったものがエレガント。リースの際でも見た瞬間にわかるんです。でもそれは、いろいろな洋服を見てきているから。これはこうしたほうがいい、これは何もしない方がいいとか。
今の話とは逆になるかもしれませんが“効率”という言葉が好きではなくて。効率を良くするには、無駄なことをする必要があると思っています。でもそれは体力的にしんどくもなっていて…。
年齢を重ねると失敗がわかるから、コスパとタイパが良くなりますよね。なるべくそこは気を付けて、やったことがないことをやる努力はしています。
それを見つける感じですよね。初体験というか。
映画も観すぎていて、だいたいわかるんです。誰が監督で、テーマを見て、宣伝を見て。わかるけれど、無理をしてでも観に行っています。で、やっぱりダメだったーとかね(笑)意外と良かったもあります。
観るのは劇場ですか?
劇場です。なるべく劇場に観に行くようにしています。
“着地を想定したうえで、思い切ったことに挑む”林
『PLAY ELEGANCE.』のPLAYの部分どう考えられますか
ファッションシューティングにおいてはカメラマンによって、すべて変えています。基本的に完成したものにしか興味はないので、その完成に向けてどうすることがそのカメラマンにとっていいことなのかを考えています。それも関係性がある上の話ですが。打合せしない場合もありますし。
本番一発勝負ですか?
本番だけです。ロケハンは行かずに自分で決めて…ということもあります。これは楽をしたいとか、さぼっているわけではなく、上がりを想像したときにそれがベストだなと、何となく自分の中で確信があるからなんですけど。今回は何も言っていないのですが、わりとレアケースです(笑)様々なことをやってきて、きちんと着地がわかったうえで思い切ったことができる。
どのくらい伝わるかによって“違和感”といわれるもののさじ加減が変わってきますよね。最初に「このくらいしたいです」という伝え方はとても考えました。
小酒井くんと太呂さんのコンビがとても良いですね。写真は全トリミングしていますよね。小酒井くん仕事してんなぁと、上がりを見て思いました(笑)
装丁からすべて見てもらっているので、自分だけではこのアイデアは出てこなかったと思います。
ルックブックの中で気に入っているカットはありますか
カットで?全体として見ているので…。表紙にもなっているこれかな。意外とこういうのは難しいですよね。
ウエストに巻いて、袖をロールアップしたのは即興ですか?
現場での即興です。コーディネートである程度決めることもありますが、ほとんどが即興です。現場で変わることもありますし、全貌が見えるのが当日です。
だから、林さんには当日早めに入ってもらっていますよね。
次回もそうなると思います(笑)だからちょっと撮影の日は緊張します。直感でやるしかないという感じですが、楽しんでやっています。
“経験を重ねたからこそ、遠回りも必要”大島
最近はウズベキスタン料理やモロッコ料理のような、まったく知らない料理を口に入れてみたいなという気持ちがあります。それは初めての体験をいくつになっても積み重ねることによって、経験値として“知る”ことを追い続けたいのかもしれません。
“紙で育ったので、やっぱり紙が好き”林
やっぱり自分が『ブルータス』や『GQ』でやる場合は、ページネーションも考えてディレクションします。ページをめくったらどうなるか。WEBはスクロール移動なので、そこがちょっとわかりづらい。ページを開いた、見開きの驚きがほしい。端末の場合、まわりにいろいろな情報がありますよね。それが紙だと背景としてしか存在しないので、集中力が高まります。