THINGS I LOVE vol.24
2026.03.19feature


2007年1月のパリ・メンズコレクションの時期、「2008年のAWコレクションでエディ・スリマンがディオール・オムのディレクターを退任する」という噂が流れた。それを聞いた僕は「えぇっ?! エディのいないパリコレ??」と、なんだかハシゴを外された気分になった。2007年頃といえば、John GallianoやLANVINなどをよく着ていたが、かつてのGUCCIやDIOR HOMMEを着まくっていた時のような、心を鷲づかみされるようなハマり方ではなかった。そのうちAbercrombie & Fitchの通販サイトに興味が沸いたりしつつ、いったい僕は何を目指しているのだろうかと、心が揺らいでいた。
そんな中、2007年の春にトム・フォードがニューヨークのマディソン・アベニューに、『TOM FORD』の1号店をオープンした。僕にもオープンイベントへの招待状が届いた。GUCCIを大復活させて新しいビジネスモデルを作り、ラグジュアリーブランドの再生ブームに火をつけたトム・フォード。その彼が、自身の名前でブランドを立ち上げたのである。ニューヨークの新店舗で開かれたオープンイベントは超華やかで、トム・フォード縁の人たちが集まった。そして店内では、ファーストコレクションのショーが行われた。
パーティー後には、ザ・カーライルホテルのボールルームで40名程のディナーが行われた。これぞアールデコと来た者をうならせる素敵な設えのなか、僕は中田英寿さん(以下、ヒデさん)と野口強さん(以下、つよしさん)とテーブルを囲んだ。隣のテーブルでは、アナ・ウィンターやジュリアン・ムーア、グウィネス・パルトロウ、ケイト・ハドソンがトム・フォード氏を囲んでいた。そのさらに隣のテーブルには、写真家のテリー・リチャードソンとストロングな顔ぶれ。『THE TOM FORD DINNER』にふさわしい、素敵な夜会だった。僕はGUCCIの服を着て行くつもりでいたが、最終的には赤いYSLのタキシードジャケット(トム・フォード時代のファーストコレクション)を着て行った。GUCCI時代の服よりも繋がりがあるのではないかと考えたのである。結局どっちでもよかったのだが、トム・フォード本人からは「いいジャケット持ってるね!」と喜んでもらえたので、着て行って良かった。トム・フォード時代のYSLには、イヴ・サンローラン時代の華やかさがジャケットのラペルやパンツの側章などのディテールに残されていた。僕は行ったことないが、かつてのニューヨークの伝説のクラブ「54」のリッチでゴージャスなイメージと重なる。
カーライルのディナーでは、昔の「54」へタイムスリップしているような気分が味わえた。さすがトム・フォードさんである。1998年に新宿のパークハイアットで乾杯を交わした日からの数々の思い出が、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。GUCCI、YSLと、ミラノ&パリの伝説ブランドに僕が近づけたのは、トム・フォードさんのおかげである。感謝しかない。
今回撮影したスーツは、今は無きマディソン・アベニューのTOM FORD1号店で作った2着目のスーツである。オープン当日に作ったスーツとは別な型の、よりTOM FORDらしいバッキンガムモデルというものにした。これはいわゆる日本人向きではないマッチョタイプのモデルで、どちらかというと背が高い人向きのモデル。僕はこれにトライした。1着目とは違ってラペルが大きく、ジャケットの存在感が強いので、個人的には膝から下があと10センチ長かったらなぁ、という思いだった。そんな悔しさを抱えながらも、完成してからかれこれ16年以上着ているのだから、結局は自分と折り合いをつけて、なんとか満足しているということなんだろうと思っている。理想とは違っているのだが(僕のボディが)、着続けていると次第に気に入ってくる。こんなケースは稀だが、これっていわゆる“オーダーメイドの魔力”のような気がする。この先も大事に着ていこうと思っている。



■祐真朋樹(@stsukezane)
1965年京都市生まれ。マガジンハウス『POPEYE』編集部でエディターとしてのキャリアをスタート。現在は雑誌のファッションページの企画・スタイリングの他、アーティストやミュージシャンの広告衣装のスタイリングを手がけている。コロナ以前は、35年以上、パリとミラノのメンズコレクションを取材していた。