THINGS I LOVE vol.22
2026.02.19feature


『BALENCIAGA』といえば、今や“ストリート感溢れるロゴの目立つ服”である。が、残された写真に写る創業者のクリストバル・バレンシアガの姿を見ると、彼自身のムードは今のブランドイメージとは真逆だ。優雅さと精悍さを兼ね備えた雰囲気で、超貴族的なスーツスタイル。この世の物とは思えないくらい美しいのである。
そんな『BALENCIAGA』のパリコレを観に行きだしたのは2005年だったと思う。当時はニコラ・ジェスキエール(現在はLouis Vuittonのウィメンズデザインディレクター/以下、ニコラ )がウィメンズコレクションのみをランウェイで発表し、メンズコレクションは展示会で見せる形式だった。当時、ニコラのウィメンズは超話題のブランドとして騒がれていたため、メンズのスタイリングを主にしている僕がインビテーションを手に入れるのは至難の業だった。でも僕は、むしろ同時期に行われていたメンズの展示会を観るのが楽しみだった。メンズのテーラードはシルエットがしなやかで美しく、ポケットなど細部のディテールまで緊張感のあるデリケートな作りが行き届いていた。そこが気に入って、毎シーズン、セットアップやジャケットを購入していた。それらは創業者、クリストバルの姿を彷彿とさせたのである。
その頃、中田英寿さん(以下、ヒデ )がニコラと仲良しになり、厳しかったウィメンズコレクションのランウェイにも友だち枠で入れるようになった。美しいテーラーリングはウィメンズコレクションにもメンズ同様に活かされていて、毎回、ショーの後はヘラルドトリビューンやWWDの一面を大きく飾る存在だった。僕はパリに行くと『BALENCIAGA』と『CHANEL』のランウェイを観るのが楽しみになった。このふたつのブランドを観ていると、なんだかオートクチュールをルーツとするパリモードを生身で感じ取れた気分になれたのである。伝統のある小さなアトリエで行われるショーと、グランパレのようなフランスを代表する大きな会場で行われるビッグメゾンのショー。両方を見ると、パリコレクションのすべてを観たという醍醐味が味わえた。パリコレには世界中のブランドが参加できるのが魅力のひとつではあるが、地元パリの歴史あるブランドが行うショーには威厳があり、歴史の重みなども加味され、格別の見応えがある。
『BALENCIAGA』は、そもそもはスペイン人のクリストバル・バレンシアガが始めたものだが、同時にそれはパリが育て、培ったものでもあった。それを引き継いだニコラは、この老舗ブランドの再生計画に取り組み、見事に成功に導いた。その後、彼が『LOUIS VUITTON』のウィメンズデザインディレクターになって以降も、その礎はアレキサンダー・ワンやデムナ・ヴァザリア(以下、デムナ )へと引き継がれ、今やクリストバルの時代とは趣を異にする形で大ブームを引き起こすブランドとなったのである。僕はあいにくアレキサンダー・ワンの時代のものは何も持っていないのだが、デムナがディレクターになってからはスニーカーやパーカを購入した。僕のライフスタイルとはまったく別のものではあるが、「面白い」と素直に思った。今はピエルパオロ・ピッチョーリがディレクターとなり、また新たなバレンシアガ像がブランディングされていくのであろう。
最近は、ニコラ時代に購入したネイビーのセットアップにデムナ時代のスニーカーを合わせて着ている。これが、クリストバルマジックなのか、意外にまとまるのである。




■祐真朋樹(@stsukezane)
1965年京都市生まれ。マガジンハウス『POPEYE』編集部でエディターとしてのキャリアをスタート。現在は雑誌のファッションページの企画・スタイリングの他、アーティストやミュージシャンの広告衣装のスタイリングを手がけている。コロナ以前は、35年以上、パリとミラノのメンズコレクションを取材していた。