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THINGS I LOVE vol.21

2026.01.22feature

 

約30年間、ミラノ、パリ、ニューヨークなどでショーを観てきたが、ショーを“観せる”側になったことも、ほん短い間だが、ある。

 2012年1月のパリのメンズコレクションで、僕は『kolor』のショーのスタイリングとモデルキャスティングに携わった。当時、東京にいる時は中目黒のスナックに毎晩通ってカラオケをしまくっていたのだが、その店はファッション業界の人間がたくさん出入りしていて、そこで顔なじみになる人もいた。ある夜、調子に乗って歌いまくっていたら、『kolor』のデザイナーである阿部潤一さんが僕の横に来て話しかけてきた。「スケザネさん、今度コレクションやるんだけど、手伝って欲しい」。酔っていた僕は「OK、OK。なんでもやりますよ。でもその件は昼間話しましょう」と言って、その夜はそれで終わった。

 数日後、阿部さんから電話があり、「この前話したコレクションの件ですが、予定としては〜」と話し始めた。僕は「本気だったんだ」と思いながら話を聞いた。僕はてっきり東京コレクションに出るのだと思っていたので、それがパリコレの話だというので驚いた。「えっ、それパリコレなんですか!?」。瞬時に身が引き締まった。翌日、阿部さんと会っていろいろとスケジュールを詰めて行くと、服が完成したら猛スピードで事を進めなければならないことがわかった。服が出来上がってからコレクション当日までは2週間ほどしかない。パリにショーサンプルと共に移動して、2日でキャスティングを済ませ、そして本番に挑むのである。それを全部、2週間でやらなければならないのだ。でもちょうど僕のコレクション観覧熱がだいぶ低くなっていた時期だったので、いいタイミングで誘ってもらえて嬉しかった。僕はまずデザイン画を見せてもらい、阿部さんにじっくり話を聞き、モデルのキャスティングに徹底的にこだわった。なにしろパリコレのデビューショーである。絶対にカッコいいショーにしたかった。海外のモデルエージェンシーに所属している新人を徹底的に調べ、それとは別にロンドンの友人に頼んでストリートハンティングでフレッシュな若者を探してもらった。外見も大事だが、なにより“味のある人”を探してほしいと頼んだ。若く美しいモデルと、男受けしそうな味のある素人モデルを混ぜてランウェイを歩かせたかったのである。ロンドンで見つけてもらった味のある5人は、パリへ入る前に決定しておいた。

 正月明け早々に『kolor』のアトリエでコーディネートを決めた。あの頃『kolor』のアトリエは代々木八幡にあり、僕の自宅のすぐ近所だったので歩いて通った。家の近所でパリコレの準備をする、という状況もちょっと面白かった。2日間であれこれスタイリングをしてルックを決めた。阿部さんと仕事をするのは初めてだったが、阿部さんはあまり注文を付けずに好きなようにやらせてくれた。全体が見えてくると、パンツ丈が短いものが多く、ほとんどのルックでソックスが見えることになるのに靴下のバリエーションが少ないことがわかった。そのことはデッサンを見た段階でちょっと予想していたので、『Budd Shirt Makers』の赤のホーズを30足用意していた。ホーズが目立つのは間違いないので、美しい赤いホーズを目立たせたら効果絶大だと思ったのだ。それに、ジェントルマンの基本アイテムをスタイリングに忍ばせておくのはメンズブランドとしての格も上がる気がしたのだ。ロンドンでストリートハンティングを頼んだのも、ロンドンの男特有のかっこよさやさり気なさ、そして特有のダサさがいい感じのドレスダウンを生んでくれそうな気がしたのである。
 美しい新人モデルには初々しさやピュアなムードを期待した。味のあるロンドンの5人にはワイルドでリアルなムードを作ってもらいたかった。コレクションは無事に終了し、翌日の〈ヘラルドトリビューン〉にはスカーレットレッドのホーズを褒める一文なども掲載され、好意的な評価を得ることができた。

 以降、計3シーズン、僕は『kolor』のパリコレの仕事をさせてもらった。素晴らしい経験だった。が、ひとつ問題があった。ショーの仕事をすると他のブランドのショーを観ることができなくなるのだ。“観る”ことと“観せる”こと。甲乙付けがたいが、当時20年以上に渡って観続けてきたことを捨てるというのも難しく、それで僕は“観せる”側の仕事を降りた。でもこの『kolor』の3シーズンのショーを通じて、僕はいろいろなことを学ぶことができて感謝している。それまでもショーのバックステージを取材したりはしてきたけれど、ショーの裏側のリアルというのは実際にスタッフとして仕事をして初めてわかることだった。そして何より、ショーを成功させる一番の原動力は、デザイナーを始めとするスタッフ全員の熱意であり、ブランドへの愛だということが身をもって理解できたのである。

 

表地はゴム引き素材。膝下あたりまでの長さで何にでも合わせやすい。裏地にはブロックチェックのウールが使われていて、暖かい!
袖口のスクエアなカットがクール。
全体のシルエットはもちろんのこと、スナップボタンやウエストベルトが軽快。新しい男のコートが出来た、と思った。

■祐真朋樹(@stsukezane
1965年京都市生まれ。マガジンハウス『POPEYE』編集部でエディターとしてのキャリアをスタート。現在は雑誌のファッションページの企画・スタイリングの他、アーティストやミュージシャンの広告衣装のスタイリングを手がけている。コロナ以前は、35年以上、パリとミラノのメンズコレクションを取材していた。

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