
野口 健
KEN NOGUCHI
ダンディズムとは、
誰かの笑顔のために本気で動ける人
EPISODE.04
「ダンディズムとは、
誰かの笑顔のために本気で動ける人」
「このまま着て帰っちゃおうかな(笑)」
袖を通した瞬間、着心地からデザインに至るまでランバン コレクションのすべてが気に入ったと話す登山家・野口健さんの口から、思わず冒頭の言葉が漏れた。それもそのはず、野口さんとランバンとの間には浅からぬ縁があった。
「実は2001年にランバンのプロモーション活動に起用されたことがあるんです。その時にスーツを作っていただき、今だに着ているので仕立ての良さは熟知していますから。自分の体型があまり変わっていないこともありますが、何より作りがしっかりしていて、デザインもまったく色褪せない。グレー地に水色のストライプが入ったデザインで、ブルーはランバンさんのシグネチャーカラーですよね。水色なのでクールな印象といいますか、シベリアン・ハスキーの瞳のように静かな情熱を感じますね」
普段の服選びの際、重要視するポイントを尋ねると、12歳の頃からイギリスに留学した経験が大きく関わっていた。


「イギリスでは、お気に入りの服を修理しながら大切に着続ける文化があって、その影響から、一度買った服をずっと大切に扱います。僕自身、30年前に購入したサファリジャケットやコートを持っています。先ほどお話ししたスーツにも自然と袖を通したくなりますしね。いい服とは、時間とともに愛着が増していくものだと思います」
2011年の東日本大震災で初めて被災地に入ったのを機に、現在は精力的にボランティア活動を展開している野口さん。実際に現地に赴くことは並大抵の行動力ではない。自分のことで精一杯になりがちな昨今だが、彼を突き動かす、他者を慮る心の源泉はどこにあるのだろう。すると24年に発生した令和6年能登半島地震の経験を振り返りながら、その思いについて静かに語り始めた。
「私は“山屋(登山愛好家のスラング)”ですが、被災地での活動って山屋の発想の延長線上にあるんです。例えば冬山は寒い。一方、避難所だって条件によっては気温が2度程度になることがある。だから被災者は、ある意味遭難者と同じような状況なんですよ。つまり避難所自体が、冬山に匹敵する過酷な環境になっているわけですから、そこでは山屋としてのノウハウが役に立つ。そうなった時、自分に何ができるかですよね」
続けて語ってくれたのは、現地だからこそ生まれる交流について。外から眺めているだけでは決して感じることのできない、被災した人たちとの温かなやり取りがそこにはあった。支援する側、される側という関係を超えた交流だ。
「当時、能登へ寝袋を届けていたのですが、ある日、ビニールハウスで生活していた高齢の方から感謝をされて、その方がお茶を出してくれたんです。“被災地では、食べ物は貰ってはいけない”という暗黙のルールがあったので迷いましたが、断ったら楽しい会話を止めることになってしまう。だから、ありがたくいただいたんです。そして『美味しい』って言ったら喜んでくれて、今度はおまんじゅうを出してくれたんです。そこでも『いただけません』と言うのは違うなと。だってその方も、僕が寝袋を届けたことに対するお礼をしたいわけですから。もちろん、一切受け取らない方もいますし、そういう方に対して否定するつもりはありません。でも僕は『うまいですね!』ってコミュニケーションしたいんです。きっとそうすることで笑顔が生まれるから」
最後に、ダンディズムを体現している理想の人物像について訊いた。すると開口一番飛び出したのは、稀代の建築家の名前だった。
「安藤忠雄さんです。公私で仲良くさせていただいているのですが、とにかくすごい。あの方は多くの私財を子どものための図書館の建設費用に投じていらっしゃるんです(「こども本の森」。子どもたちへ寄贈・寄付している文化施設。2020年開館した「こども本の森 中之島」を皮切りに、神戸や札幌でも開館)。全国規模で展開していて、今も建設中です。とかく最近の子どもは本を読まないといわれますが、安藤さんが手掛ける図書館は建物自体がアートなので、行くだけでワクワクする。図書館ではたくさんの子どもたちが本当に楽しそうにしていて、安藤さんは、そういう光景をたくさん見たいんだと思うんです。いつもおっしゃっているのは『本気で働いて本気で稼いだ分、形として残したい』。そう話す安藤さんの目はいつもキラキラしていて、本当にかっこいい」
持っているものを、惜しみなく誰かのために使う。そんな安藤さんに憧れを抱く野口さんだが、被災地へ足を運び続ける自身の生き方ともどこか重なるように思う。誰かの笑顔のために本気で動くこと。それもまたひとつのダンディズムなのだ。
カーディガン9万2400円、シャツ2万9700円、パンツ3万5200円=ランバン コレクション
野口 健
のぐち・けん●1973年、アメリカ・ボストン生まれ。高校時代に登山を始め、99年、25歳でエベレスト登頂に成功し、当時の7大陸最高峰世界最年少登頂記録を樹立。以降、エベレストや富士山の清掃登山、災害支援など、環境・社会活動にも力を注ぐ。

