THINGS I LOVE vol.23
2026.03.05feature


1957年にイタリア、ローマで創業した『VALENTINO』。1962年にはフィレンツェのピッティ宮殿で最初のファッションショーが行われ、これが欧米で大きな注目を浴びることとなった。その後、アリストテレス・オナシスやジャクリーン・オナシス、エリザベス・テイラーなどの著名な顧客を持つようになり、1971年には拠点をミラノに移した。以降、長年に渡って政財界やエンターテインメント業界で愛され続けている。
そんな老舗イタリアブランドが、パリでメンズコレクションを発表したのは2014年のことだった。それは、『VALENTINO』のイメージを一新するようなモダンでクールなコレクションだった。デザイナーはピエールパオロ・ピッチョーリ(現バレンシアガ ディレクター)とマリア・グラッツィア・キウリ(現フェンディ クリエイティブディレクター)のふたり。これがパリのメンズコレクションデビューだったが、この時パリでメンズを発表したのは絶好のタイミングだったと思う。個人的に、パリのメンズコレクションにはマンネリ感を持っていた時期だったので、この『VALENTINO』のショーには期待していた。老舗のリブランドを世に示すショーだろうし、もしかしたら驚きの展開があるのではないかと予想していた。ショーが始まると、いきなり冒頭の5つのルックに魅せられた。5ルックはいずれもコート。とにかくどのコートも、モデルが歩いたときになびくシルエットが美しい。その優雅さに度肝を抜かれたのであった。それはヴァレンティノ・ガラヴァーニが得意としていたレディースのロングドレスのごとく、しなやかで最高に美しかった。
ラグジュアリーブランドのリブランドは、今やデザイナーの交代劇が激し過ぎて、どれをリブランドと言っていいのかわからないほど混乱している。でもこの時の『VALENTINO』のショーは、見事にリブランドの成功を見せつけてくれたものだったと思う。ヴァレンティノ・ガラヴァーニの印象を引きずることなく、イタリアンクラシコの伝統を継承しつつも柔らかくてカジュアル、しかもモダンでクール。その軽やかな全体像が実に新鮮だった。
僕はこのショーで観たコートにシビれた。すぐさま買って着たかったけれど、なんとそれは“オートクチュール”アイテムであった。オートクチュールなんて、自分には縁のないものだと思っていたが、あのコートだけは何としてでも手に入れたかった。で、ローマのアトリエまで作りに行ってしまったのである。同じ時期に発表されていた白いストレッチTシャツも相当気に入って、パリの店で5枚購入した。言ってみれば“白T”なのだが、なんとも立体感のあるTシャツで、その後、いくつかのメンズブランドにも強く影響を与えた模様。似たようなTシャツが一時期たくさん出回った。ちょっとした白Tルネッサンスだったと思う。僕は勝手に“ドレスT”と呼んで、いろいろな媒体で紹介した。
コートを作ってくれたローマのアトリエは、ローマの有名なスペイン広場の隣にあり、まさにローマのど真ん中にあった。ミラノ以上に“イタリア”を感じさせるローマの街と陽気な人々が作り出す雰囲気は、『VALENTINO』にとって欠かせないイメージソースだと思う。そんなイタリアのやんちゃなムードと、格式高いローマの歴史を併せ持つ『VALENTINO』の物作りに今後も期待したい。
現在、『VALENTINO』を率いているのはアレッサンドロ・ミケーレ。彼がこのブランドに入った背景には、ミケーレの出身地であるローマ発祥のブランドだということもあったようだが、何より、彼がかつてより『VALENTINO』の“マキシマリズム”に大きな影響を受けてきたということが大きかったと聞く。『VALENTINO』の膨大なアーカイブを味方に付けたミケーレが、またもや大旋風を巻き起こす日が来るのは間違いない。




■祐真朋樹(@stsukezane)
1965年京都市生まれ。マガジンハウス『POPEYE』編集部でエディターとしてのキャリアをスタート。現在は雑誌のファッションページの企画・スタイリングの他、アーティストやミュージシャンの広告衣装のスタイリングを手がけている。コロナ以前は、35年以上、パリとミラノのメンズコレクションを取材していた。