THINGS I LOVE vol.3
2025.05.08feature


僕が初めてDOLCE&GABBANAを知ったのは1990年のこと。当時は『POPEYE』の他に、新潮社の雑誌『03(ゼロサン )』でも、時々スタイリングの仕事をしていた。
ある時、『03』でイタリアの〈ネオレアリズモ〉特集があり、その取材でイタリアに行っていた担当編集者に、「イタリア人スタッフのイチ押しのブランドはDOLCE & GABBANAだったよ」と聞いた。
SNSの存在しない時代に貴重なのは、何と言っても人づての口コミだった。毎日ロメオ ジリを着ていた僕に衝撃が走った。一体どんなブランドだろう? 当時、日本にあったショールームへ行くと、サンプルはシャツとTシャツが1点ずつのみ。でも、そこでランウェイのルック写真を見て、僕は心をわしづかみにされた。「着てみたい!」

実物を見たくて、当時唯一取り扱いのあったバーニーズニューヨーク新宿店へ駆け込んだ。・・・まずはプライスに驚愕。試着したベルベットのストレッチパンツは9万8千円。気に入って羽織ったリバーシブルのウールジャケットは20万円越え。さらに一目惚れしたコートは30万円超と、「何じゃこりゃ。服の値段なのか???」と目を疑った。それでも欲しくて欲しくてしかたがなかった。

後日、確定申告でまとまったお金が戻ってきたので、足りない分は彼女に借りたりもして、それらを購入。パンツ×1、ジャケット×2、コート×1、ニット×1で、結局100万円越えだった。今のラグジュアリーブランドのプライスからすれば安く思えるが、当時の僕にとって、洋服屋さんで三桁プライスというのはベリー・レアケース。でも、試着室で生まれて初めてはいたストレッチのベルベットパンツときたら、膨らみを持たせるところとフィットさせる部分が絶妙のパターンで作られており、この上なく美しいシルエットであった。今ではストレッチ素材の服など珍しくもないが、その頃は、メンズのドレスパンツでストレッチが利いたものなどなかった。それまで着てきた服とは次元の違う、別世界を体験した気持ちになった。大げさに聞こえるかもしれないが、圧倒的に美しいシルエットと極上の素材が織りなす世界観に、完璧に打ちのめされたのだ。こんな服を作るのは、どんな人たちなんだろうか? ・・・というわけで、ドメニコ ドルチェのホームタウンであるシチリアに俄然興味が湧き始めた。
( Vol.4に続く )

■祐真朋樹(@stsukezane)
1965年京都市生まれ。マガジンハウス『POPEYE』編集部でエディターとしてのキャリアをスタート。現在は雑誌のファッションページの企画・スタイリングの他、アーティストやミュージシャンの広告衣装のスタイリングを手がけている。コロナ以前は、35年以上、パリとミラノのメンズコレクションを取材していた。