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THINGS I LOVE vol.15

2025.10.23feature

 ボッテガ・ヴェネタは1966年、イタリアのヴィチェンツァにおいてスタートしたラグジュアリーブランド。革紐をメッシュ状に編み込んだ「イントレチャート」を開発し、ボッテガ・ヴェネタの代名詞として、今なお世界中で人気を博している。
 そんなボッテガ・ヴェネタは2001年、グッチグループの傘下となった。それに伴い、グッチグループのクリエイティブ・ディレクターだったトム・フォードがこのブランドに招いたのがトーマス・マイヤーだった。ソニア・リキエルやエルメスで経験を積んでいた彼が、ボッテガ・ヴェネタの新クリエイティブ・ディレクターとなったのであった。その年のミラノコレクションの際、僕はトムに「紹介したい人がいる」と言われ、ボッテガ・ヴェネタのショールームに行った。そこにいたのがトーマス・マイヤー。トムのパートナーで当時VOGUE HOMMEの編集長だったリチャード・バックリーも同席していて、トムとリチャードはいかにトーマスのセンスが優れていて、このブランドの適任者であるかを滾滾(こんこん)と説明してきた。彼らの熱意は伝わってきたのだが、なにしろそのショールームにはバッグやベルト、靴などのレザーグッズしかなかったので全体の世界観が見えず、いまひとつ興味がわかなかったというのが正直なところだった。ただ、トーマスの鋭い眼光と、ロレックスの腕時計、そしてレイバンのアイウエアなど、身につけていたアイテムの趣味の良さは脳裏に焼き付いた。

 その後、2004年にトムがグッチを退任した頃に、ボッテガ・ヴェネタの初めてのランウェイコレクションが発表された。イントレチャートのバッグと靴のイメージしかなかったこのブランドの存在感は、そのコレクション以降、少しずつ大きなものになっていった。僕は早速テレビの『ファッション通信』で取り上げることに。コレクションの度に毎回トーマスにインタビューしたが、さすがトムのブレーンだけあって、質問に対する答えは常に明確。そして何より、オタク趣味を最大限に発揮したディテールへのこだわりがすさまじかった。商品に付けられていたロゴをなくし、ブランドの代名詞いとも言えるイントレチャートを強調した。職人技を活かす、ボッテガ・ヴェネタの創業精神に立ち戻ったのである。

 それからも毎シーズン、ミラノコレクション後にトーマスにインタビューを繰り返しているうちに、だんだんと仲が良くなり、2005年にトーマスのプライベートブランドの店がマイアミに出来たときには「遊びに来ないか」と誘われた。その店は、トーマスがバイイングした服や雑貨、本などのセレクトショップになっているとのこと。彼の話を聞くうちに非常に興味がわいてきたので、雑誌『BRUTUS』に話を持ちかけて、マイアミのアートバーゼルの取材を絡ませて取材に出かけた。誌面にはマイアミビーチで撮影したファッション写真、アートバーゼルの取材記事、そしてトーマスがリコメンドするマイアミガイドなどが展開され、大変充実したものとなった。

 そのお返しに、翌年にはトムにマイ・ホームタウンである京都を案内することを約束した。マイアミのトーマスの店には枯山水の写真集が並べられており、大徳寺の真珠庵へ連れて行ったら絶対気に入ってくれるはずだと思ったのだ。
 それまでの会話から、トーマスの趣味嗜好はだいたいわかっていた。おそらく禅寺に興味があるであろうと確信していた。日本に戻った僕は、一般公開されていな真珠庵にどうすればトーマスを連れて行けるか、あれこれ作戦を練った。まずは寺関係に顔がききそうな先輩たちに相談。真珠庵の和尚と会うところまではたどり着いた。僕は意を決して、真珠庵に直談判に赴いた。内容は、『Casa BRUTUS』の誌面でトーマス・マイヤーと和尚の対談を掲載したいというもの。僕としては、一休さんが作った、日本の美学が凝縮された塔頭でふたりの対談が実現したら、この上なく素晴らしいものになると思ったのだが、結局和尚にははぐらかされた。目一杯気合いを入れて真珠庵を訪ねた僕は、まず裏庭に招かれ、すると、裏の畑に置かれた屋形船の中から、和尚が赤ワインを片手に「こっち、こっち」と手招きしている。一瞬、「なんだ、これは!」と、僕は夢でも見ているかのような気持ちになった。

この和尚とトーマスの京都話はまた次回に続きます。

        

ブランドタグが小さいのが特徴。これはブランドフィロソフィーである「自分のイニシャルだけで十分」というコンセプトからきている。30年前からずっとクワイエットラグジュアリースタイル。
 2008年、〈テッズ〉がテーマだったコレクションから。それまでとは打って変わって、ナポリクチュールでのきちんとした仕立て。ボッテガ・ヴェネタならではのテッズが表現された。シェイプされたラインが美しい。
オタクなトーマス・マイヤーがこだわりぬいたジーンズのディテール。テーラーメイドのような大胆なステッチと、ヴィンテージライクなフロントボタンに惹かれた。
ナポリクチュールなコンケープショルダーのコートに、同時期に発表された極太バギーデニムを合わせてみました。『花の応援団』のようなシルエット。と、今の若者に言っても伝わらないかな? いわゆる「長ラン」に「ドカン」です。インナーに合わせているのは、ランバンコレクション メンズの半袖タートル。

■祐真朋樹(@stsukezane
1965年京都市生まれ。マガジンハウス『POPEYE』編集部でエディターとしてのキャリアをスタート。現在は雑誌のファッションページの企画・スタイリングの他、アーティストやミュージシャンの広告衣装のスタイリングを手がけている。コロナ以前は、35年以上、パリとミラノのメンズコレクションを取材していた。

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