News

Things I Love vol.30


 ヒョウ柄の服を着るのはかなりの勇気が必要だ。ロックミュージシャンかマジシャンの舞台衣装を着るようなものだからだ。近所に出かけるだけで着たりはしない。ましてや、近所のコンビニへ行くのにわざわざ着たりすることは絶対にない。でも考えてみれば、ヒョウ柄のようなパンチのきいた服は、本当は近所に出かけるような気分で日常的に着てこそ、そのうちこなれた感じで着こなせるようになるのかもしれない。しかしそれにしても、このジャケットはどこから見てもステージ衣装そのものだ。入手して10年くらい経つが、公の場で着たのはほんの1〜2回である。つまり、クローゼットの中で燦然さんぜん と輝く肥やしであったわけである。

 90年代の始め、僕はちょうどパリコレを観に行き始めた頃だった。パリに行くと、長く住んでいる日本人マダムに僕はよくお世話になっていた。知らないブランドのインビテーションを手配して頂いたり、業界の著名人を紹介して頂いたり・・・。何かのパーティーにご一緒した際、彼女は昼間のコンサバな格好とは一変。ヒョウ柄のジャケットで登場した。僕はこれがパリにおける社交のスタイルかと驚いた。昼と夜を完璧に分ける! まさにカルチャーショックだった。僕もパリに住んでいたら、このサンローランのヒョウ柄ジャケットをナイトタイムに着まくっていたかもしれない。でもなぜパリやニューヨークの街ではヒョウ柄が映えるのだろう。日本でも阪神の甲子園球場あたりに行けばヒョウ柄を着ている人はたくさんいるが、街の風景にアニマル柄がお洒落に溶け込むというケースは稀だ。パリやニューヨークのようなわけにはいかない。個人的には、アニマル柄なら蛇やワニ、虎柄よりもヒョウ柄にファッション性を感じるのだが、それはサンローランの影響が大きいと思う。エディ・スリマンはディオールではアニマル柄を使っていなかったのに、サンローランのディレクターになってからはヒョウ柄やヘビ柄のアイテムを登場させた。いつかクリスチャン・ディオールとイヴ・サンローランのアーカイブを丹念に調べて、そのバックグラウンドの違いを知りたいと思う。

 "そして、東洋人が身に付けるアニマル柄と、西洋人が着るアニマル柄の印象には大きな差があるように感じる。西洋人の方が、圧倒的に獣との距離感が近いのだ。しかし、距離がある分、東洋人が身につけるアニマル柄の意外性も時として衝撃的な効果をもたらしたりもする。このギャップが、パーティーという場では決定的な存在感になったりするわけである。この1年、僕は体を壊してお酒を飲む機会もなくなり、パーティーとは縁遠いライフスタイルを送っているが、こうやってサンローランのヒョウ柄ジャケットを着ると、思わずクリュッグで乾杯したい気分になる。またパリのカフェドフロールで誕生会をしたいと思えてくる。ちなみに今回ジャケットと合わせたパンツはエディ・スリマン時代のディオール・オム。靴は同じくエディ・スリマン時代のセリーヌ、そしてインナーのタートルネックはランバン コレクションのものである。

エディ・スリマンがクリエイティブディレクターに就任した2012年に、ブランド名を「SAINT LAURENT PARIS」へ改称。”イヴ” は使われず、”YSL”のロゴも使われなくなりました。

フロントボタンは一つ。フィフティーズなムードで、テッズやロカビリースタイルのコーディネートにぴったり。リーゼントヘアとポインテッドトゥの靴がお似合いです。

ラペルはナロー。ピークトラペルではあるが、幅がタイトなのでシックなムード。

ヒョウ柄は、迫れば迫るほど獣らしさがみなぎります。銀色の細いハンガーループも個性的で魅力的。

久し振りに着たヒョウ柄ジャケット。昔はちゃんと前ボタンを留めて着られたのに・・・。


■祐真朋樹(@stsukezane)
1965年京都市生まれ。マガジンハウス『POPEYE』編集部でエディターとしてのキャリアをスタート。現在は雑誌のファッションページの企画・スタイリングの他、アーティストやミュージシャンの広告衣装のスタイリングを手がけている。コロナ以前は、35年以上、パリとミラノのメンズコレクションを取材していた。

Return to list