Feature
LC JOURNAL vol.10
LANVIN COLLECTION
LC JOURNAL
Japan in the Moment
VOL.10
TOKYO,THURSDAY,September 10, 2026
編集者としての眼差し、日常にあるエレガンス
SPECIAL DIALOGUE
今回ゲストにお迎えしたのは、2004年創刊のWEBマガジン『フイナム(HOUYHNHNM)』の編集長 小牟田亮さん。メンズファッションを中心に、アウトドア・アート・音楽・フードなど多岐にわたるトピックを深掘りし、最新トレンドをはじめ注目のクリエイターを取り上げたリアルなインタビューや、独自のカルチャー特集が人気を集めています。そんな都市生活者の感性を刺激するWEBメディアを統括する小牟田さんとともに、現在のメンズファッションから最近のライフスタイルまで、幅広く語り合っていただきました。
-
大島隆之Takayuki Oshima
ディレクター。百貨店、セレクトショップ、コレクションブランドでキャリアを積み、国内外のファッションブランドのディレクション、VMを行う。2024年よりCuatro LLC.を設立。 https://www.instagram.com/oshima_takayuki/
-
小牟田 亮Ryo Komuta
編集者。出版社を経て、WEBマガジン『HOUYHNHNM(フイナム)』編集長を務める。 https://www.houyhnhnm.jp/ 毎週火曜配信のポットキャスト『カルチャーと街づくりの経済学〜カルチャースケーパーズ〜』のパーソナリティとしても活躍。 https://www.instagram.com/com0728/
メディアが進むべき、これからの道
“『エレガンス』と聞いて、真っ先に思い浮かぶ人”大島
今回、対談相手として小牟田さんにオファーされた理由をお聞かせください。
『LC JOURNAL』は当初、“新しい「ランバン コレクション」を一緒に表現する人”というテーマでスタートし、ルックブックを制作するチームで3回、その後のNoritakeさんとはコラボレーションでものづくりをご一緒しました。今回は“大島がエレガンスを感じる人”というテーマでキャスティングをしています。
僕が思うエレガンスは、知性とユーモア・エスプリみたいな要素。そう思ったとき、真っ先に頭に浮かんだのが小牟田さんでした。
「ランバン コレクション」をリブランディングするというのは、少し前から大島さんに聞いていました。ですので、『PLAY ELEGANCE.』がコンセプトということも知っていたのですが、お声がけいただいた時には『僕のどこにエレガンスが…?』という思いがありました。ただ、いま大島さんがおっしゃったいくつかのキーワードを聞くと、エレガンスのファーストインプレッションとして思い浮かぶような言葉ではないですし、そういう要素を自分の中に見てくれたのかなと。でも、『大丈夫かな?』と今でも思っています(笑)。
あと、追加でひとつ。小牟田さんには言ったことはないですが、声ですね。すごく素敵だなと思っていて。今朝、妻とポッドキャストを聴いていて、同じことを言っていました。なので、これで声を届けられないのが残念です。
初めてお会いしたときからいい意味で印象は大きく変わらないですね。同世代とお聞きしたけど、落ち着いているなと思っていました。
“一次情報に触れることが大切”小牟田
今、メンズファッションやカルチャーの最前線におられる小牟田さんの情報の取捨選択へのお考えをお聞かせください。
新卒学生の面談で必ず出る質問で『編集者はどうやって情報を取っているのか?』というものがあります。日々、SNSやあらゆるメディアからインプットをしていますが、それはみんなやっていることだと思います。結局のところ、SNSの中の誰から、どこから情報を取るかという問題になるので、エディット・キュレーションの重要性はますます高まっていくのではないでしょうか。それと、一次情報の重要性にも改めて気付かされます。SNSで見たお店がすごく素敵なプレゼンテーションをしていたとしても、実際に行ってみたら何か違うな…みたいなことってよくあると思うんです。SNSから情報をインプットすることは多いですが、それを鵜呑みにはしないようにしています。
たしかに、そうですね。
メディアの役割や意義をきちんと考えないといけない時代になったと思います。スマートフォンで情報を取ったり、時間を使ったりするという意味において、InstagramやYouTube、TikTokなどと同じフィールドに立たなければならないようなところもあるのではないでしょうか。メディアにダイレクト、もしくはオーガニックにアクセスするユーザーももちろんいるとは思うのですが、SNSを見ていて自分の好みの情報が流れてきたときにメディアを閲覧する、という流れが今は一般的なのかなと思います。
ここ1年半くらいでSNSが変わったなと思っていて。見るものをコントロールされていますよね。アルゴリズムによって広告も決まってきますし、AIも質問の仕方で見当違いの回答があったり…。そういった中で、鵜呑みということがすごく怖いなと思います。“調べる”と“検索”は違うなと。検証をしなかったり。先ほどお話しされていた、情報は取れるけれど…ということに繋がりますが。それを生かす知恵がカギになってくるのかなと思います。
そうですよね。
あと、SNSが良い・悪いではなく、フィジカルに戻ってくるのかなと思っています。書店の心地よさや引っかかるものとか。そういったことの揺り戻しが来ると感じていますし、自分はそうだなと思っています。
人間の許容範囲を超えた情報がどんどん入ってきてしまうので、よっぽど印象的なものでないと、すぐに忘れられてしまいますよね。なので、新しくブランドを立ち上げても、あまり語らない、寡黙なブランドが増えていると感じます。一度に多くの情報を出してしまうと、すぐにわかった気になられてしまうというお話を聞いたことがあります。『はい、次』みたいな。
情報量は本当に多いですもんね…。
“清潔感から、清涼感へ”大島
いま、大人の男性がライフスタイルにおいて、本当に求めていることは何だと思われますか。
1番は、快適さかなと思います。洗える・乾くという機能面ではなく、迷わない・気持ちが上がるといった、数字ではわからない快適さを求めているのかなと。
これだけ暑い日が長く続くようになると、快適さと聞いて連想するのは、暑いときにどれだけ涼しいと感じられるかですよね。自分は服づくりのプロフェッショナルではないですが、あたたかい服を作るより、涼しい服を作る方が難しいのではないかな、と思っています。
それでいうと僕たちは、快適の中に“エレガンス”をどれくらい組み込めるかが、ブランドのキーになっています。どれが1番涼しいですか?と聞かれますが、正直にいうと「35℃を超えればどれも暑いです」という答えになります。でも夏のファッションも変わってきていて、男性のノースリーブが自然になったり、透けることが嫌じゃなくなったり。汗をかくことは仕方がない。でも汗染みが服につくのは嫌だから、それが出ないような仕立てや素材にしよう。人に会うときに涼し気な服装というのも、ファッションとしての要素かなと思うようになりました。昔は清潔感だったのが、いまは清涼感が入っていることがポイントかなと。
服だけではなくライフスタイル全体の話でいえば、みんなとにかく疲れていると思うので、“癒し”の需要が高いと思っています。これは僕だけじゃないと信じているのですが(笑)。逃避や退避を意味する“リトリート”という概念は、もっと注目されるようになるのではないでしょうか。具体的にいうと、温泉にもっともっとフォーカスが当たると個人的には思っています。
“鎌倉と東京の二拠点で切り替えを”小牟田
小牟田さん、いま疲れていますか?
そんなことはないと思いますが…(笑)。
あれがあるから頑張ろうみたいなことを、僕は“ご褒美”という言い方をしていて。大きなことではなく、日常の『ほっ』とすることはありますか?いま探しているのですが…。
僕の場合は、住まいが鎌倉で仕事は東京なので、オンとオフが地続きではなく、はっきりと分かれています。東京に住んでいた時は『仕事が遊びで、遊びが仕事』という感じでしたが、今は完全に気持ちが切り替わっています。そういう意味では、シンプルに土日がご褒美ですね。
小牟田さんの週末には、海と焚火の印象があります。週末がそういう風になるのはいいですね。
電車で東京から鎌倉に向かうと、ひとつ手前の駅が北鎌倉という駅なのですが、そこで周辺の空気が変わるという話をよく聞きます。本当にその通りなんですよね。自然にスイッチが変わる感覚があります。
オフになりますよね。僕は切り替えができなくて、日々同じテンションで仕事をしているのがちょっと怖いなと思っています。居住地かぁ…考えたことなかったです。
場所を変えられないなら、自分の中で気分が変わるきっかけを作ったりしたらいいのかもしれませんね。例えば普段とは香りを変えてみるとか。
カウンセリングを受けている気分になってきました(笑)。疲れてくると香りに依存する気質はあります。
最近、自分が好きなブランドが立て続けにお香をリリースして、改めてお香に向き合ってみたんですけど、少し変わったプロダクトだなと思いました。というのもお香ってそんなに燃焼時間が長くないじゃないですか。だからある程度の時間、お香を楽しむなら少し手間がかかりますよね。アナログレコードをひっくり返すのにも少し似ているというか。でもこの“わざわざ”な感じが大事なのかなと。お休みの日に、なんでもいいので“わざわざ”なことをするだけで、心が疲れないのかなと思います。大きなことではなくてもよくて、確かに自分の時間を過ごしたという実感さえあれば、いいのかなって最近思うんです。
次に会ったときには『先生』と呼んでいるかもしれないです(笑)。
勘弁してください(笑)。丁寧な暮らしとかそういうものからは本当に縁遠い人間なので…。
“シーズンテーマの余白に、独自の解釈を加えています”大島
今シーズンの「ランバン コレクション」のテーマを教えてください。
毎シーズン、テーマがあるんですか?
本国(パリ)から提案がきます。今回は『完全ではない美しさ』。この余白を膨らましていいんだなという解釈をしています。
そういう抽象的な、解釈の余地があるテーマなんですね。
そうなのです。日本でのオリジナリティを服にも、イメージにも加えています。
今季は『The Elegance of Almost.』がテーマなんですね。
完全なるエレガンスじゃない、ということをテーマにしています。カジュアルを差すとか、抜けた要素を入れることを考えて、スタイリングにも反映していただいています。
なるほど。赤が出てくると(スタイリストの)林さんだなという感じがしますね。
強いですよね、やっぱり。
この写真
かっこいいですね。ボタンの感じとか、すごくいいと思います。
ありがとうございます。この辺りは、リブランディング後のこなしや表現かなと思っています。回を追うごとに意図の共有が深まって、こういう崩しが出てきています。
林さんには『フイナム』でインタビューさせてもらったことがあるのですが、林さんこそエレガントな方だなと思います。ちょっとした崩し方に色気と品を感じますよね。
スタイリングは打合せで希望を伝えて、あとは基本的には任せています。“らしさ”を出していただくことを大切にしています。
ルックブックをご覧になった印象はいかがですか?
エレガンスってすごく難しい概念だと思うんですけど、関わっているクリエイターの方々が気負わず、気取らず、肩の力の抜けたクリエイションをされていて、それが形になっているという印象です。直球なエレガンスというよりも、自然に品の良さが出ているというか。絶妙な匙加減だなと思いました。
“謙虚であることもエレガンスかもしれない”小牟田
ブランドコンセプトに『PLAY ELEGANCE.』を掲げていますが、小牟田さんにとってのエレガンスとはどのようなことだとお考えですか?
エレガンスだなと思う所作は色々あります。扉を静かに閉めるとか、落ちているゴミをきちんと拾うとか、ハンカチをいつも持っているとか、店員さんに敬語で話すとか。どれもどうということではないのですが、僕の中ではこれらはすべてエレガンスを形作る要素たちです。
ちゃんとしていると思う人ですね。ハンカチを出したときにアイロンがかかっていて素敵だなとか。整えられたものを身につけていることもエレガンスですね。清いということもエレガンスに近いのかもしれないです。
自分ができているとか、そういう話ではないのですが…。でもなるべくそうありたいと思っています。あとは謙虚であることもエレガンスかもしれないです。
謙虚と謙遜もまた違いますよね。例えば、褒められたときに『ありがとうございます』と言った方がいいなと最近思います。
わかります。その方が気持ちがいいですよね。
“食べるという行為に、興味が湧いています”大島
今後おふたりがファッションやカルチャーを通じて仕掛けてみたいことはありますか?
大島さんは、飲食系はやらないんですか?
とても興味があるジャンルです。
そうかな、と思っていました。
食関係で仕事や会社でなにかトライアルはありますか?
『フイナム』では食のコンテンツは以前から取り扱っていますが、もっとそれを充実させていきたいですね。ファインダイニングも好きですし、カジュアルな定食屋や町中華も大好きです。その振り幅をうまく表現できたらいいなと思っています。会社としてはスナックをやりたいというスタッフがいて面白そうだな、と。コミュニケーションを深めて、コミュニティを育める場所としてすごく注目しています。
食べるという行為や、身体に入ってくるものの効果に、歳を重ねてからとても興味が出てきています。なんちゃってグルテンフリーをしてみたり。そうすると少し調子が良くて、食べ物でこんなに変わるんだということを実感しています。
やりたいというよりも、飲食店にすごく興味があります。趣味の対象と言うべきか。店舗が好きなんです。開店したら、どんなお客様が来るのか、どんな注文が入るのか、とかすべてがアドリブですよね。その即興芸のようなものが舞台を見ているようで好きなのです。
“経験に基づく知性と、アウトプットするユーモア”大島
知性とは深い言葉だなと思います。その場に身を置いたり、歴史を肌で感じていないと出てこない知性がある。ファッションを勉強して、西洋服装史を知り尽くしている、知識の素晴らしさもあると思うけれど、「服が好きで古着もモードも一通り着ています」というのとは少し違っていて。実体験に基づく知性と、それをアウトプットするユーモアの両方が必要なのだと感じます。
“立体的かつ多面的なメディアに”小牟田
『フイナム』はファッションから始まったWEBマガジンではありますが、時が経つにつれ、様々なライフスタイルを紹介していくメディアへと変化していきました。今後はその動きをもっと加速させていきたいと思っています。そのためにこの春から編集部をチーム分けしました。やりたいことはたくさんあるのですが、ひとつ挙げるならば、フィジカルな取り組みをより活性化させていきたいと考えています。イベントを起こしたり、ものを作ったり。メディアを立体的に動かしていくというのが、直近のイメージです。
